ハバロフスク日本人会会報    りっか  рикка     2002年早春・Vol.2 

着任メッセージ

 はじめまして。昨年1217日に前任者の三谷に替わり当地に着任しました住友商事の岡と申します。ロシアでの長期滞在は今回が3回目です。1回目は弊社入社後ロシア語研修生として9193年の2年間モスクワで、2回目は駐在員として9598年の2年間半、再度モスクワにて生活しました。滞在中にはソ連邦崩壊等混乱したロシアの姿、その後急激に変化していく新生ロシアの姿を主にモスクワにて直に経験しました。モスクワから地方に出張する度にモスクワと地方との経済、生活等あらゆる面での格差が広がっていき、モスクワに戻るとなぜかホッとしていたのはこの頃です。今回はその地方の一つであるハバロフスクにて駐在生活をする事になった訳ですが、実は当地及びお隣の沿海州、サハ共和国は私が最も頻繁に出張した土地で何か特別な縁のようなものを感じております。先ずはこちらに来ての最初の印象ですがやはりモスクワに見られる大型百貨店が出来てきている事と街がかなり見栄えがよくなった、特に大通りの街灯が明るくなり、全体的に雰囲気が明るくなったという事です。正月、クリスマス前に来たせいもありますがレーニン広場の氷像とイルミネーションがとても印象的でして、休日などに広場を通りかかると家族連れなど多く遊びに来ており市民のゆとりのようなものを感じます。街全体の印象としてモスクワあるいはウラジオストクとの比較でもそうですが地方都市のいい意味でののどかさを感じております。さて、こちらに来て何かウィンタースポーツが出来ないものか探したのですがウラジオストク街道を南下した所にスキー場があるのが分かり早速行ってきました。日本のように座る形式のリフトではなくワイヤに自ら棒を引っかけて滑りながら牽引される形式なのでいささか体力を使いますがまずまず楽しめるゲレンデです。日本と同様大音量のBGMが流れる中で若者グループや家族連れがスキー或いはスノーボードを楽しんでおり、中にはシャシリクを焼いているグループもいます。私はレンタルスキー、ブーツを借りたのですが十分使えて立派な物でした。まだこちらに来たばかりでよく事情を知りませんが仕事、生活両面でいろいろとノウハウを蓄積していきたいと思います。宜しくお願いいたします。

(岡 一郎)

離任にあたってのご挨拶

 こんにちは。日本総領事館の堀部麻衣子と申します。

 この度、3月末に丸2年間の任期を終えて日本へ帰国することになりました。

 私は、外務省の「在外公館派遣員制度」という、20歳から26歳の若者(!?)を、世界の各在外公館(大使館、総領事館、出張駐在官事務所など)に2年の期限で派遣する制度で参りました。対外的には、主に日本などからの出張者の空港送迎や、市内視察等の仕事をしますので、空港やホテルによく出没するのを目撃されていたかもしれません。

 私の後任は上原牧子さんといいます。3月中旬に着任予定ですので、皆様どうぞよろしくお願い致します。

 ハバロフスク滞在中に色々な人と知り合い、たくさんの楽しい思い出ができ、また一層ロシアを身近に感じるようになりました。この2年間でハバロフスクの街はとても変わりました。あと5年後、10年後、どんなに街が変わっているのか是非見に来たいと思います。

 邦人の皆様とは親しくさせていただいた方、お世話になった方もたくさんいます。この場をお借りしてお礼を申し上げます。そして、帰国後もハバロフスクとハバロフスク日本人会の発展を祈っております。

 皆様、お元気で!

平成14220

在ハバロフスク日本国総領事館

派遣員 堀部 麻衣子

求人の情報を、「ロシアの声」の金子佳美までお寄せ下さい!!

 今年4月にロシア国営ラジオ公社「ロシアの声」での翻訳員兼アナウンサーとしての3年の契約期間満了に伴い、日本へ帰国の予定です。ロシア内外のニュース、ビジネス、経済、政治、文化関連の記事の翻訳とそのアナウンス、そしてロシアの日常生活にどっぷり漬かった3年間で得たことを活かすべく、新たな道を模索中です。ロシア、ロシア語関連の職の情報がありましたら、

yoshimikaneko@hotmail.com または пi4212)32−45−46(「ロシアの声」翻訳室)までお寄せ下さい。“食”に関する“職”の情報も大歓迎です。


ハバロフスク第7パン工場のオレーグ・フョードロフ工場長に/突撃インタビュー☆

 

 パン好き(正確に言うと穀物好き)の私はいつか、自ら足繁く通う、家のそばのパン専門キオスクの“おおもと”を訪れてみたいと思っていました。ある日思いきってキオスクのおばさんに本部の電話番号と社長の名前を聞き、早速連絡をとってみることに。社長は女性でした。「あなたの工場のパンのファンなんです。ぜひインタビューをとらせて下さい。そして、できれば工場見学をさせて下さい。」とかなり力強く話すと、突然のインタビューの依頼にはじめ戸惑っていた社長は、少し考えてから、「それなら私よりも工場長の方がいいでしょう。」と言って、工場長の部屋の電話番号を教えてくれる。すぐに、電話をかけてみると、工場長は不在だったので留守番電話にメッセージを入れる。数日後に再び電話。工場長はとても忙しそう。やっと約束をとりつけて、指定された日に工場へ行くと、守衛さんが出てきて、「工場長は急用ができて、さっき出かけたんだよ。明日の朝早く、電話してみて。」と言うではありませんか。はりきって30分も早く、着いてしまった私は守衛さんのこの言葉にがっかり。言われた通り、次の日の朝に電話。すると、インタビューには応じるけど、工場見学はだめとのこと。約束の日に工場へ行くと、“日本人を実際に見たのはこれがはじめて”という守衛さんが私を工場長の部屋につれていってくれる。部屋には大勢の人。白衣を着た工場職員らしき人や取引き先の人と思われる男性など。私に「ちょっと待ってて。」と目で合図した工場長はスーツでビシッときめ、とても几帳面そうに見えました。電話の時に少し警戒したような感じがしたのですが、これで納得。部屋にいた人たちは徐々に引き揚げていき、いよいよインタビューの時がやってくる。まず工場長は私に、「あなたどこの人?」と何とも多民族国家であるロシアらしい質問を投げかけてくる。

 私:「えっ?!

 工場長(以下、工):「だから、つまりあなたは日本のラジオ局で働いているロシア人?」

 私:「いえ、ロシアのラジオ局で働いている日本人です。」

 工:「あ、そう」

 私はロシアのパンに非常に興味を持っていて、ぜひ日本人に向けたロシアのパンについての記事を書きたいという旨を伝える。そして第7パン工場のパンをとても気に入っているということも。それでも工場長はその固い表情を変えなかったのでした。

<インタビュー>

私:では早速質問にうつらせていただきます。ハバロフスク第7パン工場の歴史について教えて下さい。

工:ハバロフスクで最も古い企業の1つである我工場の歴史は、ファシストドイツとの戦いがはじまっ 

  た年つまり1941年にさかのぼります。当時、我国は大変困難な状態にあり、国の資金は全て敵に  

  対する反撃のために使われました。そのため食糧不足が顕著となり、政府は緊急にハバロフスクに

  新たな工場を創設する決定をとりました。それで1945年に我工場が建てられ、操業を開始したと  

  いうわけです。

私:工場は24時間体制で動いているということですが。

工:その通り。昼、夜ともに焼いています。ちなみに1日に約20tのパンを出荷しています。

私:職員の勤務体制、そしてパンの配達の時間帯について教えて下さい。

工:朝の部(グループ)と夜の部(グループ)12時間ごとに交代して作業をおこなっています。配達は 

  朝方の4時から夜7時までおこなっています。

私:工場長さんのところの焼きたてのパンを手に入れるにはどうしたらよいのでしょうか。

工:ハバロフスク内に我工場は300店舗の顧客を有していますが、データによると、多くの人が午後に 

  パンを買うので、午後の方がよいでしょう。

私:第7工場の商品の中で最も消費量が多いのはどんなパンですか? 菓子パン以外でお願いします。

工:我工場では50種類以上のパン製品を出荷しておりそのうちの14種類がパン(хлеб)です。やは 

  り一番消費量が多いのは黒パンです。例えばдарницкий(ダールニツキー)、 

  бородинский(ボロディンスキー)московский(モスコフスキー)などです。 

  次に白パン(белый хлеб)、バケット(батон)の順です。ちなみにヴラジオストック 

  など沿海地方では灰色のパンが好まれているんですよ。

私:同じロシアでも地域によって好まれるパンの種類がちがうのですね。

工:そういうこと。

私:ちなみに工場長さんはどんなパンがお好きなんですか?

工:дарницкий(典型的なロシアの黒パン)だね。

私:やっぱり工場長さんは工場から直接ほっかほかの焼きたてのパンを持って帰るんですか?

工:そんなことはしないですよ。工場付属の店かキオスクで買っています。

私:(まあ、律儀) ところで工場長さんのところにはбатон отрубной(バトン・オトル 

  ブノーイ、麩(ふすま)入りのバケット)зерновой(ゼルナヴォイ、全粒粉パン)がありま 

  すよね。

工:それらは食事療法用のパンです。消化器系疾患などにいいのです。こんぶの栄養分であるヨウ素を 

  生地に練りこ込んだパンもあります。

私:私も麩入りのパンを試してみましたが、腸がきれいになる感じがしました。それでは、白パン、黒

  パン、灰色パンのちがいは?

工:白パンは小麦粉、黒パンはライ麦、灰色パンは小麦粉とライ麦を混ぜたものが原料です。

私:それぞれ風味が違いますよね。

工:風味も違うし、体への効用も異なるのです。黒パンはやっぱり体にいいんですよ。

私:小麦やライ麦はどこから運んでくるんですか?

工:西の方です。

私:西って?

工:オムスクやアルタイ地方です。

私:ハバロフスクで小麦粉にしているんですか?

工:そう。ハバロフスクに製粉工場があるのです。

私:だから、小麦粉の外皮である麩を粉にしたりあるいは荒くひいたり自分たちで調節できるのですね。

工:その通り。

私:パンの作り方は昔も今も変わらないのですか?

工:全く変わりません。伝統的なロシアのパンのつくり方です。

私:他社のパンと異なる点、売りにしている点は何ですか?

工:我工場では一度にたくさんの生地をつくってこねるということはしていません。何か欠陥が見つか 

  った時にそれを駆除するのが大変だから。20kg25kgぐらいずつ特別の容器で分けて生地を練っ 

  ています。これなら後で何かあっても対処しやすいですから。つまり我工場のパンはいつでも安心

  して皆さんに食べていただけるということです。

私:なるほど! 次に工場長さんのところの菓子パンについて質問してもいいですか?(わくわく?)工:もちろん。

        ====================<コラム>=====================      

ロシアの小麦粉のはなし@

・小麦粉になるのは小麦の主に胚乳部分で、製粉の工程で胚芽や麩(ふすま)は取除かれています。しかし、この分離された部分にはビタミンB群、ビタミンE、ミネラル、食物繊維が多く含まれています。まさにбатон 

 отрубной(麩入りのバケット)хлеб зерновой(全粒粉パン)は健康効果を期待できるパンと言えます。       ※全粒粉:小麦をまるごと粒のままひいて粉にしたもの。

・ヨウ素入りのパン

 ロシアでヨウ素(йод)入りの食品をよく見かけますが、パンの生地にまで練りこんでいるとは驚きですね。ヨウ素が欠乏すると、甲状腺の機能が低下するそうです。太りやすくなったり、疲れやすくなったりもします。

          ==============================================           

(金子佳美)

☆総合日本文化フェスティバル「Japanese Cherry Blossoms-2002!」ご案内☆

 3月15日から3月末までの約2週間、総領事館、露日協会ハバロフスク支部及び「太平洋の星」紙、ハバロフスクテレビラジオ会社「極東」の共催により、総合日本文化フェスティバル「Japanese Cherry Blossoms-2002!」を開催します。ハバロフスク市民参加型行事を目指しており、ハバロフスクで日本文化や日本語教育に携わる市民が主体となってフェスティバルをつくりあげます。日本人会会員の皆様におかれましても、映画祭など楽しめる催しがたくさんありますので、是非足をお運びください。共同制作以外はすべて会場への入場無料です。 

<実施内容>

1.3月15日 日本映画祭(〜24日まで、「ソフキノ」または「ギガント」小ホール)

 オープニング(フェスティバル全体のオープニング)(於:映画館「ソフキノ」)、

 アンサンブル及び日本の歌、日本クイズ表彰式、「どら平太」上映

上映映画

・「どら平太」監督:市川崑、原作:山本周五郎「町奉行日記」、

 キャスト:役所広司、宇崎竜童、菅原文太、片岡鶴太郎、石倉三郎、石橋蓮司

 あらすじ:どら平太というあだ名を持つ役所広司扮する型破りな町奉行の活躍を描く娯楽時代劇。69年、黒澤明ら4人の巨匠が「4騎の会」を結成。その第一作品に予定されていたものをメンバーである市川監督が映画化したもの。

・「はつ恋」

 監督:篠原哲雄、脚本:長澤雅彦、キャスト:田中麗奈、真田広之、原田美枝子

 あらすじ:17歳の聡夏(田中麗奈)は、ふとしたことから入院中の母(原田美枝子)の古いオルゴールの中から1通の手紙と1枚の写真を見つける。それは24年まえに母が藤木と言う男に宛てた出されなかったラブレターだった・・・

・「顔」監督:阪本順治 キャスト:藤山直美、中村勘九郎、牧瀬里穂、豊川悦司、佐藤浩市ほか

 あらすじ:ひきこもり気味の中年女性の主人公(藤山直美)が、殺人を犯した逃亡生活の中で発生する悲劇や人とのつながり、そのカオスの中で再生を見いだしていく様を捉えた人間心理ドラマ。

・「NAGISA」監督:小沼勝、原作:村上もとか

 あらすじ:60年代の江ノ島を舞台に小学6年生のなぎさのひつ夏を物語る映画。新しい出会いを通じ、すこし大人になっていく思春期の少女の物語。

・「火垂るの墓」監督、脚本:高畑勲、原作:野坂昭如

 ご存じ高畑勲監督のアニメ作品。昭和20年6月5日、神戸。14歳の清太と4歳の節子の兄妹は、父が出征中のこの日の空襲で母と家を失い、未亡人のおばのもとを訪ねる。そこでの暮らしもやがて邪魔者扱いされるようになり、二人は防空壕に移り住む。幼い兄妹は二人きりで力強く生きようとするが・・・。

2.映画館ホール内での展示事業

 折り紙クラブ展示会(15日〜22日まで)

 友好協会内クラブ「すずらん」会員による生け花展示(15日〜18日まで)

3.日露共同製作劇

 「羽衣」上演(17日18:00、トリアーダ劇場)

 「ブンナ」(27日12:00、青年座)

4.琉球舞踊公演及び沖縄紹介コーナー(26、27、28日:トリアーダ劇場)

 トリアーダが沖縄の風に包まれる!!はるばる沖縄から三線演奏者2名と琉球舞踊のダンサー2名がハバロフスクに公演に来てくださいます!!ロビーでは、沖縄の紹介コーナーを設け、まだ寒いハバロフスクに南国の風を贈ります。

5.ラジオ日本の歌コンクール(ハバロフスクラジオ)

(第一回放送済、第二回2月13日、最終3月20日)

 ロシア人で日本の歌が歌える方なら誰でも参加OKです。ラジオ局に録音に行くか、デモテープを送付して下さい(担当:チェーホヴァ O.N.TEL・38−04−20)第一回放送では、プロのバリトン歌手のジバエドフさんもゲスト出演して下さいました。

6.第2回ハバロフスク日本語履修学生対抗日本語カラオケ大会

(30日13:00より:経済法律アカデミー講堂にて)

 ハバロフスク市内の日本語履修大学生による、のど自慢カラオケ大会です。昨年は、工科大学の女子学生が宇多田ヒカルの「First Love」を唱い優勝しました。審査員も驚くほど日本の歌が上手な学生さんが多かったです。是非聴きにいらして下さい。また、お知り合いでカラオケが好きな学生さんがいらっしゃったら、参加を薦めて下さい。

7.新聞紙上日本クイズ「桜の枝」

 2月1日「太平洋の星」紙に問題を掲載しました。問題用紙は友好協会に置いてあります。締め切りは3月7日です。優秀な回答者を映画祭の開会式にて表彰し、プレゼントも用意しています。但し、参加及び回答はロシア人に限らせて頂きます。

(外山智香子)

藤瀬総領事公邸料理人が贈る/ハバロフスク生活応援レシピ

 日本人会会員の皆様におかれては、食材が限られるハバロフスクでの生活で、どうしてもメニューがワンパターンになりがちだと思います。そこで藤瀬料理人に今号より、毎号ハバロフスクで調達できる食材を使ったアイデアレシピを紹介してもらいます。一人暮らしに優しい簡単なレシピを紹介していきますので、是非お試し下さい。今号は、「豆腐ハンバーグとグレープフルーツの浅漬け」というヘルシーメニューです。

<豆腐ハンバーグ>

材料

・豆腐 (水切りしたもの) 1/8〜1/4 (豆腐の分量が多いと柔らかい仕上がりになります)

・挽肉 (豚でも鶏でも可) 約150g  ・卵2個、パン粉大さじ4 (一掴み)、塩25g(5つまみ)、胡椒少々、おろし生姜1かけ、玉葱1/2、青葱適量、ごま油小さじ2  ・大根おろし (トッピングに使用)  ・ごま油 (焼くときに使用)

 以上の材料で、普通のハンバーグと全く同じように混ぜ、形を整え、ごま油で両面しっかり焼きます。大根おろしと醤油でさっぱりいただいて下さい。

<グレープフルーツの浅漬け>

材料

・グレープフルーツジュース  ・塩  ・鷹の爪 (なくても可)少々  ・野菜 (白菜、キャベツ、キュウリ、人参などなど冷蔵庫にある野菜で可)

 ボール (ビニール袋でも可)にカットした野菜を入れ、塩、鷹の爪、グレープフルーツジュース (ひたひた位)を入れ、冷蔵庫へ・・・塩加減は、舐めてちょっと塩辛い程度にして下さい。2時間位保冷した後は、野菜の水気を絞って食卓へ! そのままでもいいですが、お好みで七味、醤油、鰹節などかけてもいいでしょう。後味がさっぱりしていて、意外なおいしさです。しっかり漬かった漬け物がお好きな方は、保冷の時間を調節して下さい。


☆セイウチたちの週末☆

 寒中水泳愛好者のことを、ロシアではセイウチ(морж)と呼ぶ。最近その『生態』に迫る機会を得た。

 とある週末の早朝、知り合いのY夫妻とともに郊外へ。めざすはアムール川にかかる橋からほど近いところにある湖だ。橋を渡りきってしばらく行ったところで、夫妻はおもむろに車を降りてジョギングを始めた。「泳ぐ前には必ずウォーミングアップをする。普通は6`走るが、寒さ暑さの厳しい時期は3`。今日は暖かいけど3`にしておこう。」無人の荒野の一本道を、夫妻は楽しそうに語らいながら軽快に走る。ちょうど真っ赤な太陽が朝もやの中から姿を現してくるところだ。

 30分程度でジョギングを切り上げ、再び車でテマリンという集落を抜けると湖に到着。ここには彼ら以外の“セイウチ”は来ないという。車のトランクから銛と網を取り出して現場に向かう。見渡す限り厚い雪と氷で、どこで泳ぐのか分からない。「ここだ。」わずかな窪みと雪の山を指して夫妻は準備を始める。「この間の日曜日に来て氷を割ったが、また凍ってしまった。今日は君も手伝ってくれ。」一人は銛で氷を割り、二人目は氷の破片を網ですくい取って脇に積み上げる。三人目はつかの間の休息。交代でひたすら氷を割り、破片をすくい上げる。銛は重く、紐で首から吊るさないとうっかり湖に落としそうだ。コツをつかまないと効率よく割れない。網で氷をすくうのも足場が滑りやすくて一苦労だ。腕も足腰も背中も痛くなる。夫妻の真剣な様子は、氷上と水中を行き来する穴を懸命に確保せんとする本物のセイウチさながらだ。ロシア人には、いったん何かやると決めたら、一見不思議な事でもとことん情熱を傾けてやり遂げるタイプが多いように思われる。

 「普段は20歳と14歳の息子2人に氷を割らせるが、今日は用事があって2人ともいない。君が来てくれて助かったよ。ここはかつてアムール川の一部だったがいつしか湖になった。湧き水が水源だから川の水よりきれいだ。いくら冬寒くても、水温は0℃以下にはならない。水の方が温かいのさ。冬に泳いでもそれが原因で風邪をひくことはない。寒いと思うから寒く感じて風邪をひく。ただし夏から泳ぎ始めて少しずつ慣れていかないと無理だけどね。晩秋とか早春がベストシーズンだ。水はそれほど冷たくなくて、しかもこうして氷を割る必要がない。夏は少し走っただけで汗が出るし、水中に藻が繁殖して淀んだ感じがするから好きじゃない。なぜこんな苦労をするのかって?これは苦労じゃなくて楽しみなんだよ。一週間デスクワークばかりだと体を動かしたくなるし、この新鮮な空気の中で泳ぐなんて最高じゃないか。しかも寒中水泳を続けると血行が良くなり心肺機能も高まる。皮膚も鍛えられる。いいことづくめだよ!ロシア人の中でも冬に泳ぐのは“セイウチ”だけだ。休日は昼まで寝る人もいるけど、もったいないね。」

 こんな話をしながら丸一時間、厚さ50cmの氷を割って2m四方の穴が完成。上り下りする個所にはちゃんと段差がつけてある。厚着をしてきた私は汗だくになってしまい、この黒い水面に飛び込んでみたいという衝動にかられる。しかし心臓麻痺を起こすといけないので我慢。

 「まず私から。」奥さんが手早く水着姿になって、ゆっくりと体を水に浸し、手足で水を掻く。「ああ、気持ちいい!」「そろそろ20秒だぞ!」旦那さんの掛け声で上陸。あまり長く水浴するのは良くないという。続いて旦那さんが約20秒。あんなに苦労して穴を開けたのに、あっけなく終わってしまった。彼はまず手袋と靴下を着用。「手足の先が一番冷えやすいからすぐに手袋と靴下で被って末端まで血液が巡るようにする。風を遮るためにこの雪の壁に隠れることもできる。」風上にはちゃんと雪が積み上げてある。さすがに風に当たると寒そうだが、鳥肌もさほど立っていない。お二人とも全身に脂肪をたくわえている体型ではなく、皮膚もセイウチのように分厚くない。それでも寒がらないのは常日頃の鍛錬の成果か。

 ふと見ると、奥さんが水を拭って下に置いたタオルが氷結し、氷にくっついてしまっている。私も汗が冷えて急に寒くなってきた。タオルを剥がし、銛と網を持って車へ。

 「紅茶を飲もう。薬草のエキスも煎じてあるから体が温まる。今日穴を開けたから、明日は楽だ。もちろん明日も来るとも!日曜日だからね!」車中でいただいた紅茶がおいしく、五臓六腑に染み渡る。

 帰り道にアムール川を渡る時にはカセットテープで『アムール川のさざなみ』を聴くのが夫婦のスタイルなのだった。さざなみ一つない凍ったアムール川を眺めながら、ようやく分かった。彼らにとって寒中水泳だけが目的なのではなく、出発から帰宅までが完結した儀式、哲学なのだ。単にお茶を飲むことを目的としない日本の茶道に通ずるものがある。

 「冬の週末の午後はさらにスキーをする。行ってみよう。」彼らの週末の楽しみは続く。市内から車で1時間弱、ヘフツィル自然保護区の山中を分け入っていくと、『スパルタク』が近年造成したスキー場が現れる。ロシアではクロスカントリーが主流だと思っていた私は、驚いた。カラフルなスキーウェアをまとった人々が思い思いにシュプールを描いている。スノーボーダーの姿も見える。新潟のスキー場よりは空いているようだ。さらに近づくと、日本のスキー場のようにBGMが聞こえる。ただし松任谷由美の歌ではなく、ロシアやアメリカの歌だ。車から降りると、シャシリクを焼くいい匂いが立ち込める。日本のスキー場にカレーライスが欠かせないのに似ているではないか。

 スキー場の俯瞰図を描いた看板によると、規模は小さいがコースは2本、リフト、食堂、トイレ、スキー学校もある。さっそく挑戦してみることにした。

 スキー板、靴、ストックを借りると1時間80ルーブル。リフトは1回30ルーブル。リフトとはいってもワイヤーに棒がぶら下がっているタイプで、人はその棒につかまったり、棒をおしりに当てて手でワイヤーをつかむ。ワイヤーが伸びるので、スキー板で斜面を滑りながら登るのだ。旦那さんと二人で棒につかまって上り始めたが、腰を下ろして座る日本のリフトしか知らない私は、うまく重心をコントロールできない。しかも斜面はでこぼこ、ところどころ土や草木が顔を出している。「あっ!」少し行ったところで旦那さんと私のスキー板が接触、交差し、二人とも派手に転倒してしまった。後から来る空の棒につかまって上り続けようと思ったが、人がいないとワイヤーが縮んで棒には手が届かない。「ごめんなさい。今度は別々に上りましょう。」スタート地点に戻り、旦那さんを見送る。小さな子供も楽々と上っていく。先の方はかなりきつい傾斜になっていて終点は見えない。人の背中が延々と連なっているだけだ。

 気を取り直して乗り場のおじさんに手伝ってもらい、棒をおしりに当てて再出発。しかし勾配がきつくなったところで尻餅をついてしまい。またしても棒に置き去りにされた。「座るな!」というおじさんのアドバイスを得て三度目の挑戦。今度は棒をしっかりつかむ。ようやく勝手が分かってきた。「どうしてこんなリフトなんだろう?建設費が安いからか?突然停電になっても人が宙吊りになる危険がないからか?そういえば日本で初めてスキー場に行った時にもリフトにうまく乗れなくて、乗り場のおじさんに叱られたものだ。」こんなことをぼんやりと考えているうちに、ますます坂が急になり、大きなこぶに引っ掛かった。思わずワイヤーを強く引っ張ったらワイヤーがスルスルと伸びて、またしても尻餅をついてしまった。あえなく脱落。

 「今回はこの辺で諦めるとするか。」ここからゲレンデに抜けて麓に戻ることにした。

 振り返ってみて、眼科の雄大な風景に息を呑んだ。アムール川、ハバロフスクの街並み、発電所の煙、そして見渡す限りの雪原が遥かに広がっている。

 こんなすてきな週末を過ごす“セイウチ”は幸せ者だ。                

(宮島利行)

☆民話のしずく 〜 エヴェーン人の民話 〜

どうしてタイメンのひれは赤いの

 川に、ほこりたかいタイメン(イトウにちかいサケ科の淡水魚)がすんでいました。魚たちは、みんな、そのタイメンをおそれていました。そのタイメンは、としおいたカワカマスとだけなかよしでした。

 秋までに、タイメンは、あつい脂肪の層をたくわえ、浅瀬でのんびりしていました。ほかの魚は、みんな、きびしい冬にそなえていました。あるものは、ふかいあなのなかで冬をすごすつもりでした。あるものは、ながれのしずかなひろい場所にのこりました。また、あるものは、根こぎにされた木かぶのしたや流木がつみかさなったしたにかくれました。

 きびしいさむさがちかづき、川には、氷があらわれました。それでもほこりたかいタイメンは、浅瀬でよこになっていました。そこへ、としおいたカワカマスが、およいできました。

 「なんだって、おまえさんは、ごろごろしているんです? 冬がくるんですよ。おぼえているかぎり、ここで冬をこしたものは、ありません。はやく、ここをあとにするんですな」

 けれども、タイメンは、もっともな助言に耳をかさず、あいかわらず、のろのろとねがえりをうっていました。じぶんがどんなあぶない目にさらされているか、かんがえていませんでした。タイメンは、あおむけになり、尾とひれで氷をおいはらいはじめました。そのうちに、がんこものがそうしたいとおもっても、もう、氷からのがれることができなくなってしまいました・・・  こうして、タイメンは、冬じゅう、氷にはさまれたまま、あおむけによこたわっていました。

 春がきました。川では、氷が音をたててわれはじめました。タイメンは、やっとほっとし、川のふかみへとおよいでいきました。そのとき、としおいたカワカマスが、タイメンを目にし、たいそうおどろきました。

 「どうしたんです、タイメンさん? 尾とひれが、赤ぶどう酒色ですよ!」

 「凍傷にかかったんですよ、きっと」とタイメンは、つぶやくようにいいました。

 「だから、いっておいたろう。浅瀬をあとにして、ほかの魚とおなじように、冬ごもりをなさいな、と」

 「でも、わたくしは、みなさんとはちがいます」タイメンは、むっとしました。「冬をりっぱにすごしましたよ、だれの助言もなしに」

 「それなら、しようがない。ごじぶんの知恵で生きるんですな、そんなにほこりたかいのなら」ととしおいたカワカマスは、いい、さきへおよいでいきました。

 そのときから、カワカマスは、タイメンとなかたがいしてしまいました。そして、タイメンには、赤いひれが記念にのこったんだとさ。               

               (岡田和也訳)

(トロフィーモフ編「金のトナカイのものがたり」リオチープ、1998、ハバロフスク)


☆暮らしの伝言板☆

◎もうみなさんご存知かもしれませんが、14番のバスで「ТАМАРА」前で降りると、大きなスーパーマ ーケットがあります。たしか去年の夏頃にオープンしたと思いますが、当初は店の棚にも空きがありましたが、今では次から次へと新しい商品が入ってきています。土・日などはレジで並ぶほどです。そのためか価格も安定していて、例えば中央市場で11рで売っているアルペンゴールドのチョコレートも 10.20рなど返って安いのです。それにキッコーマンのお醤油が1g209рなど、ドム・アデジダの3階より100р近くも安いと思います。広々とした店内でカートを押しながら、ちょっとハバロフスクから出たような気分になります。また、私たちはハバロフスクで唯一子供連れで来ているのですが、私が家でホームスクールをしています。国語の授業で短歌・俳句を作りました。

・長き冬 春をこいしむ ロシアから (彩良・小6)

・ホカロンの 熱さすぐ消え ロシアでは (璃彩・小3)

 特に上の子は本を読むのがとても好きで、もしどなたか日本文学書をお持ちでしたら貸していただけると嬉しいです。

 どなたか子供たちに習字を月に一度でも教えてくださる方はいませんか?特に下の子は「枠」の中に収まらない字を書いています・・・ 。習字の道具は持っています。

(高山嘉津子)

◎≪小さなお店≫

 医科大前のバス停『レーニン広場』の近くに、石の店『カームシェク(камушек)』があります。

 このお店はキオスクなので、歩いていると見逃しそうなほど小さいお店です。パンのキオスクのように、小さな窓口からお店のお姉さんに「このネックレス見せてください」と言うのはなんだか面白く感じます。もちろん試着もできます。大きさは小さいもの、色々な種類の石でできた指輪、ピアス、ネックレス、ブレスレットなどが揃っています。値段も様々なのですが、40ルーブルでとてもかわいいピアスを見つけました☆
 
足早では気づかない小さなお店。一度覗いてみてください。                                             (山下順子)

【放送局だより】国営ラヂオ「ロシヤの声」ハバロフスク放送局日本課(電話:32−45−46)の毎月一回の自主制作番組「シベリヤ銀河ステーション」フリートーク・コーナーでは、友情ゲスト出演してくださる方を募集しております。時間は10〜15分程度。普段着のおしゃべりを楽しむコーナーです。また、スタヂオ見学ご希望の方はどうぞご連絡ください。ちなみに、現在当地でよく聞こえている当放送局の周波数は5.930メガヘルツ(3月30日に改定されます)。放送時間は、当地冬時間の毎日22時から24時までです(23時からはモスクヴァ発信)。

【編集だより】「六花」早春号、おかげさまでとても多彩でもりだくさんの内容となりました。すてきな原稿や貴重な情報をお寄せくださった皆様に感謝申し上げます。「六花」は、現在、在ハバロフスク日本国総領事館と日本センターに常時置かせていただいておりますほか、総領事館のホームページ(www.cgjapankhabarovsk.ru)でもご覧いただけます。次号は、恒例のアムール河舟遊びのご案内と併せて夏の初めに発行できればとかんがえており、一応5月22日を締め切りとさせていただきます。会員の皆様、くちコミ情報、離任・着任メッセージ、求人・求職情報などなど、自由なテーマでお気軽に原稿や情報を編集係の岡田までお寄せください。編集にご参加くださる方も随時ご連絡ください(eメール:okada@pop.redcom.ru 岡田和也)。お知り合いの方にもお伝えいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。会員のみなさんの手でどんな「六花」に育っていくかとても楽しみです。 

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六花(РИККА)早春(2)号




































































































































































































































































































































































































































































































































































































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